日向坂46メンバーのキャッチコピーについて

 

 前々からアイドルのキャッチコピーがおもしろいなと思っていた。こういう分類ができるなとか、こういう意図や効果があるのかなとかを考えていたので、今回は日向坂46メンバーのそれを題材にとっていろいろ書いてみる。キャッチコピーなんて本当に初期の頃しか使わないもので、そのアイドルの本質を表していないじゃないかという意見はある意味その通りだと思う。だからこそ、まだアイドル本人もファンも周囲の人も「その人らしさ」をわかっていない段階で押し出される特質的な要素について考えることで、何が「アイドルらしさ」とされているのかが少しわかるのではないかと思っているのである。

 今回は冠番組のひらがな推し/日向坂で会いましょう初出演時に披露したキャッチコピーに準拠する。リストは以下の通り。

 

  • 井口眞緒「あなたは私を好きにな~る♪」
  • 潮紗理菜「トゥリマカシートゥリマカシーサリマカシー!! 全く眠れなさそうな子守唄歌えます!潮紗理菜です!」
  • 柿崎芽美「けやき坂46のフランス人形」
  • 影山優佳「サッカー大好き少女」
  • 加藤史帆「優し 可愛し かとし こと加藤史帆です」
  • 齊藤京子「ラーメン大好き齊藤京子です!」
  • 佐々木久美「グミが好きな久美」
  • 佐々木美玲「あんぱん しょくぱん みーぱん♪」
  • 高瀬愛奈けやき坂46のグローバル少女 高瀬愛奈です!」
  • 高本彩花「あなたのハートを射抜けたらいいなぁ・・・高本彩花です」
  • 東村芽衣奈良県から来たマイペース代表 東村芽衣です」
  • 金村美玖「みんなみくをお寿司かない!!」
  • 河田陽菜「石橋をたたいて割っちゃう河田陽菜です」
  • 小坂菜緒「大阪 小坂 けやき坂 3本坂を全力で駆け上ります!」
  • 富田鈴花「胎児の時からワチキはパリピ(ラップ調で)」
  • 丹生明里「弱いけど剣道三段持ってます! 肩幅広い丹生明里です!」
  • 濱岸ひより「高身長 最年少 中学3年生 15歳 濱岸ひよりです」
  • 松田好花「納豆大好き!松田好花です」
  • 宮田愛萌「みなさんのハートを”もえ”させる和風娘」
  • 渡邉美穂「埼玉が生んだ怒涛の起爆剤
  • 上村ひなの「いつでもどこでも変化球 ひなのなの」
  • 髙橋未来虹「日向坂の未来に虹をかけます」
  • 森本茉莉「もーっともーっともりもっと、幸せもーっともりもっと」
  • 山口陽世「ぷぅ~、ぱる。砂丘の中からこんにちは。山口陽世です」

 

 どのメンバーもキャッチコピーを考える上で多かれ少なかれ家族、友人、メンバーに相談していると個人的には考えているが、「他者に考えてもらった」と明言しているのは加藤史帆の「やさし かわいし かとしこと加藤史帆です」だけであり、その点には留保して扱っていく。

 また、上記にあげたもの以外のキャッチコピーを持つメンバーも多く、例えば影山優佳には「あなたのハートにゲーゲンプレス」というキャッチコピーがある。これは約2年間活動を休んでいた影山優佳が復帰後から使い始めたもので、回数としてはこちらの方が断然多い。他にも上記以外のものを扱う際にはその都度言及していく。

 

 まずは1, 2, 3期生のキャッチコピーに含まれる要素を分類し、それぞれの特徴などを見ていく。その上で9月に加入した4期生のキャッチコピーを一人ずつ分析し、最後にまとめのよう何かを書いてみる。

 

 

1,2,3期生のキャッチコピー分類

 

①名前

 自分の名前・あだ名を入れているもので、これが1番わかりやすい。ただし、フルネームは全員名乗るので、その前のフレーズに含まれているかが大事になる。例を挙げると「みんなみくをお寿司かない!」「大阪、小坂、けやき坂、3本坂を全力で駆け上がります」「トゥリマカシー、トゥリマカシー、サリマカシー」「優し 可愛し かとし こと加藤史帆です」「あんぱん しょくぱん みーぱん」などがある。最初の2人はそれぞれ名字と下の名前をそのまま使っており、後の3人はあだ名を入れている。あだ名を入れている3人はその後定着しており、すでに確立されたあだ名がある人はこれが手っ取り早いかもしれない。


②出身地

 出身地を入れるもの。「大阪小坂けやき坂 3本坂を全力で駆け上がります」「奈良県から来たマイペース代表」など、非首都圏出身のメンバーがこれを入れるのが多いなか、渡邉美穂は「埼玉が生んだ怒涛の起爆剤」と埼玉出身であることをアピールしており珍しいパターン。実は埼玉県は県として番組で取り上げられることも多く、そのような番組に「埼玉出身」タレントとして出演することもあったし、同じく埼玉出身の金村、丹生と「埼玉3人組」と呼ばれてもいたので、渡邉の試みは成功しているだろう。また直接出身地名を入れるのではなく、「ぷぅ~、ぱる。砂丘の中からこんにちは。山口陽世です」のように土地の名所を挙げるパターンや、神奈川生まれで幼少期インドネシアに住んでいた潮紗理菜の「トゥリマカシートゥリマカシーサリマカシー!! 全く眠れなさそうな子守唄歌えます!」のように言語でゆかりの土地を示すパターンもある。

 

③特技・趣味

 「あなたのハートを射抜けたらいいなあ・・・」「弱いけど剣道3段持ってます」「トゥリマカシートゥリマカシーサリマカシー!! 全く眠れなさそうな子守唄歌えます!」「サッカー大好き少女」「あなたのハートにゲーゲンプレス」などがこれにあたる。部活や習い事でやっていたことに言及するパターンや、その場で披露できるちょっと珍しい技のようなもの(潮によるインドネシア語の子守唄)のパターンがある。影山優佳の「ゲーゲンプレス」(サッカーの戦術の一つ)は、彼女が得意というより、このような専門知識を知っているくらいサッカーが好きだというアピールである。

 

④好きな食べ物

 意外と多いパターンで、「ラーメン大好き齊藤京子です」「納豆大好き松田好花です」「グミが好きな久美」「あんぱん しょくぱん みーぱん」などがある。久美のグミ以外はその後の活動にもちゃんと生きており、齊藤京子佐々木美玲はそれぞれラーメンとパンを食べる番組までやっていた。とても安直に思えるし、ラーメンやパンはジャンルとしてメジャーすぎる気もするが、かなり役立っているみたいだ。

 

⑤チャームポイント

 次の⑥との対比で、主に外見の面での特徴を入れるパターン。「高身長 最年少 中学3年生 15歳 濱岸ひよりです」「肩幅広い丹生明里です」がこれにあたる。「優し 可愛し かとし こと加藤史帆です」もそうだろうか。これら以外にも「笑顔」などはここに分類することができるだろう。意外というべきか、チャームポイントを含んでいるキャッチコピーは少なく、これについては後で言及する。


⑥性格

 これが分類の中で1番曖昧で微妙なもの。⑤との対比で内面の特徴を表す。「奈良県から来たマイペース代表」「胎児の時からワチキはパリピ」「石橋をたたいて割っちゃう河田陽菜です」などが当てはまるが、他のどのキャッチコピーにも性格が滲んでいると言われればそうなので、主観によるものが大きいかもしれない。一応の基準としては、言い方や語尾ではなく単語が入っているかどうか。

 

 

 ちなみにここまでキャッチコピーに含まれるソフト面の要素について分類してきたが、ソフト面の伝え方であるハード面で最も多いのは、自らの特徴をシンプルに叙述したもの。あとは呼びかけ/コールアンアンドレスポンス系がある。とくに「あんぱん しょくぱん みーぱん♪」などはファンの掛け声と手拍子によって成り立つ部分があり、このやうならギミックを入れているパターンもある。「あなたは私を好きにな~る♪」のような催眠術系は呼びかけ系の亜種だと言えるだろう。

 

 また、「もーっともーっともりもっと、幸せもーっともりもっと」に関しては①名前が含まれている以外は分類のしようがなく、どうしていいかわからない。「私と居れば幸せになれる」ということなのか、だとしてもそれは森本の(ファンを幸せにするような)内面を表しているのか、彼女の(ファンを幸せにしていく)姿勢を表しているのか、判断がつかない。

 

 

4期生のキャッチコピーの分析


 ここまで1, 2, 3期生のキャッチコピーに含まれる要素を分類してきた上で、この分類に基づいて最近日向坂に加入した4期生のキャッチコピーを見ていく。

 


石塚瑶季「たまき!元気!ノーテンキ!」

 使われている要素は①と⑥。名前と性格をシンプルに押し出しており、覚えやすいわかりやすい。元ネタというかみんなが連想するのは井脇ノブ子の「やる気 元気 井脇」で、乃木坂46五期生の五百城茉央のキャッチコピーもこれにかけた「やる気 元気 いおき」なので、かなり汎用性の高いフォーマットなのだろう。「元気」と「ノーテンキ」はかぶっている範囲も広いが完全に一致しているわけではないので、この二つが並んでいることで解像度が上がる面もある。


岸帆夏「私と一緒にほのぼのしましょ 岸ほのぼのほのかです」

 「ほのぼの」というワードに名前①と性格⑥を込めており、かなりキャッチー。ひなあいではキャッチコピーそのものよりも披露時の緊張具合に目が行ったが、覚えやすいしかなりいいキャッチコピーだと思う。

 

西夏菜実「落ち込んだときは524-773(こにしななみ)におかけください」

 名前①を数字に置き換えているのだが、発想が独特。同級生から524773と呼ばれて嫌だったらしいが、あえてそれをキャッチコピーに採用。落ち込んだときは電話を、と言っているが特に癒しキャラみたいなのを志向しているわけではなさそう。ただ初見でかなりのインパクトがあるのは間違いない。


清水理央「みんなを照らすおひさまスマイル」

 とてもベタな内容がゆえに分類しにくいが、あえてするならチャームポイント⑤に当たるだろう。考えすぎて何周も何周もした結果奇妙な個性が滲み出ている他メンバーのキャッチコピーとは違って、驚くほど捻りがない。でも逆にそれが他にはない「王道」感を醸し出しており、笑顔と明るい太陽という日向坂全体のコンセプトど真ん中を通ることこそがむしろ他との差別化になっている。

 

正源司陽子「チョコ好き、バレンタインデー生まれの正源司陽子です!」

④の好きな食べ物パターンだが、その後に来る「バレンタイン生まれ」を導くための「チョコ好き」宣言感が強く、印象には残りにくいか。この「バレンタイン生まれ」も分類がしにくい。

 

竹内希来里「あなたの元にきらりんT細胞」

 名前①はまずわかるが、パンデミックが起き、やれワクチンだのやれ免疫だのを耳にする機会が多いこのご時世に「キラーT細胞」にかけたキャッチコピーをもってくるセンスよ。T細胞がやってくるということはこちらがウイルス扱いされてる気もするが。しかしきらりん→キラーT細胞はやや飛躍しすぎだと思うし、T細胞とウイルスの関係がアイドルとファンの関係の類推として成立しているとも思えないので、考えれば考えるほどよくわからないキャッチコピーである。

 

平岡海月「福井県から漂流してきました 福井県産クラゲ」

 名前①と出身地②を組み合わせたキャッチコピー。出身地の表現で「福井県からやってきました」ではなくクラゲから連想した「漂流」というワードをチョイスしているのがオフビートなで良い。ただ、後半にも「福井県産」と入れるなら、前半は「日本海から漂流してきました」とかのほうが良かったかもしれない。あと、福井県から東京まで漂流するってめちゃくちゃ大変じゃないか?もしかしたらここで言ってる漂流先は特定の場所というよりは「あなたの元に漂流してきました」的なものなのかもしれない。

 

平尾帆夏「鳥取砂丘から、おひさまに向かって〜ひら砲!!」

 出身地②と名前①が入っている。山口陽世と鳥取出身でかぶり、名字の「平」で平岡海月とかぶり、下の名前の「帆夏」で岸帆夏とかぶっているなかで、名字と名前を縮めた「ひらほ」と組み合わせたキャッチーなワード「ひら砲」を作ってきたのはすごい。ジェスチャーもわかりやすいし、「おひさま」の部分を都市名に変えればライブの煽りでも使えそうだし。声出し可能になれば「ひら砲」の部分をファンが一緒に言うこともできるだろう。平尾はかなりクレバーだと思われる。


藤嶌果歩「のんびり北からかほりん降臨ー!!」

4文字ずつ区切られた声に出して読みやすいキャッチコピーながら、あだ名①、出身地②、性格⑥が詰まっている上に韻まで踏んでいて完成度高し。とくに降臨と韻をふんだあだ名「かほりん」はかなり印象に残りやすいし呼びやすいので、これから確実に定着すると思う。

 

宮地すみれ「スマイル、スマイル・・・スミレ!すみれの虜になっちゃった!」

名前①すみれ(Smile)と日向坂的なイメージのスマイル(笑顔)⑤をかけたキャッチコピー。これを初めて聞いて名前とスマイルの綴りがかかってることに気づける人は少ないだろうが、スマイルが日向坂らしいイメージを持っており単体で成立しているので問題ないだろう。催眠術っぽいフォーマットに関しては井口眞緒のキャッチコピーを彷彿とさせる(宮地の方がクォリティは高い)。

 

山下葉留花「シャチホコに乗って会いに来ました!」

 愛知県出身であること②が含まれているだけのシンプルなキャッチコピー。「日向坂で会いましょう」の番組名も意識しているのかも。他のメンバーがキャッチコピーを練ってきてるなか、やや影は薄いか。

 

渡辺莉奈「莉奈のこと推して良かろうもん!」

名前①と出身地②が入ったキャッチコピーで、自分への「推し」を促すのは金村美玖ぽい。最年少メンバーながらそのことに触れていない。また、地方出身のメンバーの中でも方言を取り入れているのは珍しいので、そこでの違いはあるだろう。

 

 

まとめ

 ここまで見てきて、言及したいことが二つある。

 一つ目は、自らの外見に言及したもの(分類で言うと⑤のチャームポイント)がイメージよりも少ないということだ。分類の⑤の項目で挙げた3人に加え、4期生の清水と宮地が「笑顔/スマイル」を入れているくらいだ。しかし、「高身長」も「肩幅広い」もいわゆる美醜の価値判断のど真ん中にあるものではない。また、笑顔は外見上の特徴であると同時に「明るい内面」を表していもいるため、ハッキリと外見上の特徴と言い切ることはできない。そのなかで、「優し 可愛し かとし」は美醜の価値判断に乗っかっていると言われるかもしれないが、これは加藤本人が考えたものではないと明言されている(紹介時に加藤は自分のキャッチコピーを聞くのを嫌がっている)。

 この世界でアイドルという職業をしている以上、彼女たちはどうしても「目の大きさ」「鼻の高さ」といった美醜の価値判断に巻き込まれてしまうし、実際「チャームポイントは何ですか」と聞かれたときにはそれぞれ何かしらを答えている。しかし、彼女たちはそれをキャッチコピーを用いて「自分から」は言い出さないのである。実質的にそのようなアピールが文化として求められているにもかかわらず、自主規制なのか暗黙のルールからなのか、主体的にそれらを言い出すことはほとんどない。この矛盾、ダブルスタンダードのようなものはとても興味深いと思う。

 二つ目は、「アイドルは自らの"弱み"をも"武器"にする職業である」と考えられている節がありそうという点だ。「肩幅広い丹生明里です」「524-773におかけください」などは、ここで挙げられている要素を本人が好きではないと明言している。にも関わらずキャッチコピーとして採用されているのは、自分の好き嫌いに関わらない「特徴」が求められていると彼女たちが感じているからだろう。

 齊藤京子は「ラーメン大好き」と最後まで迷ったキャッチコピーの候補として「今日も京子に強烈興味津々」があったと語っている。正直、こちらの方がキャッチコピーとしての完成度は高いと思うのだが、あえて「ラーメン大好き」という「アイドルらしくない(と見なされやすい)」方向を選んだのである。これも、彼女たちがそれだけ他者との違いを重視していることがわかる。

 

 最後にここまでを振り返ってきて感じるのは、これだけ他者との違いを重視しているのにも関わらず、彼女たちのキャッチコピーの内容は共通するところが多いということだ。まだ自分でも自分のことを十全に理解していない人間(10代後半で自分のことをきちんと理解している人なんてほとんどいない)が短い言葉で自分を表そうとして同じような出来になるのは当然だろう。しかし、そのなかでもアイドルのキャッチコピーの型からはみ出ようとしていたり、コードに沿っていないものはある。似通った要素を分け入って進んだ先に、どうにも分類できない"揺らぎ"が見える。結局、最初に書いたような「アイドルらしさ」はほとんど解明できなかったけど、このような"揺らぎ"を持つ、「似てるようで全然似てない」キャッチコピーを見るのはとても楽しいので、これからも注目していきたい。