執着と信頼は紙一重〜『シン・仮面ライダー』感想(ネタバレあり)

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 『シン・仮面ライダー』には、何かしら誰かしらへの執着を抱えている人、執着を全く持っていない人、あるいは執着を抱えていたけど手放さそうとしている人が登場する。主人公の本郷猛(池松壮亮)は警察官だった父親を亡くした過去から、大切な人を守ることと、そのための力に執着している。緑川ルリ子(浜辺美波)は他人を信用せず、自分の考えと行動によって目標を達成しようとしており、その兄緑川イチロー森山未來)は亡くなった母に執着していた過去があり、今は全人類を執着から逃れさせるためになにやら物騒な計画を企てている。

 本郷は父親を守れなかった代わりにルリ子を守ろうとするわけだけど、結局守ることはできない。そこで出会うのが一匹狼の一文字隼人(柄本佑)で、バッタの改造人間という境遇や、正義を信じる心を持つ者同士のつながりが信頼を生み、「誰かを守らなければならない」という強迫観念にも似た執着からは生まれなかった力を本郷は発揮することができる。このあたりの1号&2号ライダーのバディ感が最高で、若干ねっちょりしてるけど生真面目な池松1号と、さっぱり爽やかだけどチャラい雰囲気の柄本2号が相性抜群。そら「信頼」も生まれますわなと。

 一方ルリ子も最初は本郷を信頼に足る他者としては見ていないものの、行動を共にするうちに彼を信頼し、彼女の目標を託すに至る。家族がクソ野郎ばかりでいまいち誰かに身を任せることができなかった人生で、不器用だけど誠実な人間が現れて「この人なら信じても良いんだ」と思えた時の感動たるや。ただ、「お前妹寝たのか?」「僕とルリ子さんは恋愛じゃない」というセリフでしか2人の関係を描き切れない(と考えている)のは悪い意味で古臭いなと。そんなセリフなくてもわかるよ。

 イチローも執着に苦しんだ過去があるからこそ、まどろっこしい人間同士のつながりゼロ、味もしゃしゃりもないハビタット世界に行こうとするけど、妹であるルリ子からの説得や、似た過去とトラウマを持つ本郷とのつながり(他人のヘルメットをかぶること≒エンパシー)を経て、人間同士のつながりを回復する。

 『シン・仮面ライダー』では、執着と信頼をどちらも人間らしい感情としつつ、ネガティブな結果を生むリスクがある「執着」に身を浸すより、より健康的なかたちのつながりである「信頼」を作っていこう、みたいなことを描いているのだと思う。人間が生きていく上でどうにもまとわりついてくる「執着」がボディホラー的なイメージでとても身体的に描かれる一方(本郷が自分の姿を鏡で初めて見るシーンなんかまんまそれ)、「信頼」が肉体を通さずに交わすことができる精神的な繋がりとしているのもおもしろい。かといって肉体をなくしたハビタット世界には信頼はなく、「信頼」が存在するには感情が必要、みたいなところも良い。

 みたいなことつらつら考えていたものの、はたしてこれは映画からちゃんと読み取れることなのか、それとも自分が勝手に役者の演技や存在感から想像したストーリーなのか、いまいち自信がない。思い返せばそれぞれのキャラクター造形、掘り下げの部分は全然足りてない気もするのだが、後味は良いので問題はないだろう。また、上に書いた3人以外にも執着をもっているキャラがいて、それはルリルリに執着するハチオーグ/ヒロミ(西野七瀬)である。彼女は蜂の組織を模したような奴隷制をもって世界を支配しようとしている一方、組織時代の友人だったルリ子への執着も見せている。ハチオーグの独特の魅力も相まってとても可能性を感じる描写なのだが、監督が特に興味がないのかわりとサラッと流されており、気になるところである。今はサソリオーグのスピンオフが見たくなっています。