Netflixで『スピード&ラブ』を観た。『ハッピー・オールド・イヤー』のナワポン・タムロンラタナリット監督の作品。
スポーツスタッキングが趣味のカオと、植物が好きなジェイは高校で出会って意気投合し、共に暮らし始める。カオはスポーツスタッキングでの世界記録更新を目指して練習に励み、ジェイはそんな彼を献身的に支えるが、2人の生活と心は次第にすれ違っていく。
夢見がちで実際的な物事にまったく対処できない男に、彼の身の回りの世話を全部していた女が愛想を尽かす、みたいな展開自体はかなりありきたり。だけど全体を彩るユーモア(原題の"FAST & FEEL LOVE"が表すように、映画のパロディや引用が多め)や、恋人同士の関係を描く距離感が絶妙でとてとおもしろかった。
(以下ネタバレあり)
自分の好みとしてはやや男側に甘いところがあるというか、カオの何もしてなさに対してジェイが愛想を尽かしたと言いつつ最後まで面倒見すぎなところはある。ただ、他の映画なら悪く描かれそうなジェイの行動(家を出ていくこと、委任状のくだりなど)を「彼女なりに真剣に考えた結果の行動」としてリスペクトするような眼差しがあり、そのへんはとても見やすかった。
また、アヴァンタイトルで2人が接近するシーンがとてもロマンチックに撮れていたし、なんといっても最後に別れるシーンがめちゃくちゃよかった。すごく前向きで爽やかで、だけど今までの自分たちの歴史を無かったことにしないような、素晴らしい余韻(車で別れて空撮する感じはワイスピのスカイミッションのオマージュ?)。
2人の関係について、なまじっかジェイの方がもともと人や物の世話をするのが好きなタイプだからこそ線引きが難しくなってるところがあるなと思った。だから個人的には「カオの世話自体はいいけど、カオが自分のことをまったく顧みなくなったのがキツい」みたいなのが決定打になったのかなと解釈した。最初の段階から、カオが練習部屋にするのが「子供部屋」というのもいろいろ皮肉が効いている。
日々の終わらない家事の連続を描くタッチもとても好きだった。ジェイが家事をするシーンのくたびれ具合、全く家事をしたことがないカオが風呂の排水口の髪の毛を見て「わざわざ置いた?普段は無いのに……」とか、ブラインドの埃を拭いながら「タイムループしてる……」とか、いちいち可笑しい。家事の終わらないめんどくささを、ああやってユーモア混じりに描いてもらえると観ているこちら側の生活までもが少し楽になる気がする。
映画ファンとしては、目の前で起きた出来事全てに頭の中の映画のワンシーンを当てはめて脳内再生しちゃう主人公の性質がめちゃくちゃわかる。