2021年映画ベスト10

今年もこの季節がやって来たとか一年あっという間だったとか言ってても始まらないので、早速今年観た新作映画の中でベスト10を発表します。

 

 

ちなみに個人的なベスト10参加資格である「新作映画」とは、「その年初めて日本語字幕付きで観られるようになった映画」くらいの定義です。劇場公開、配信、DVD/Blu-ray問わずで、映画祭は含まないということ。でも(今回はないけど)前年の年末に公開されて今年観た映画が含まれることもあるので、まったく厳密なものではないです。それでは以下映画ごとの短評↓

 

①    クイーン&スリム

現代アメリカで黒人が生きることの切実さを、「ボニーとクライド」的な枠を換骨奪胎して描くロードムービー。美しく浮遊感があるようなショットと素晴らしいサウンドトラックのなかに、痛みと歓びが込められている。主人公男女それぞれのキャラクターもステレオタイプを逸脱しながら深みがあって、とくにアーネスト(ダニエル・カルーヤ)のような「弱さを見せることに躊躇いがなく、人の話を聞ける男性」がすごくナチュラルに登場するのにグッときた。


②    偶然と想像

それぞれ偶然と想像が機能する3つの短編から成るオムニバス映画。脚本段階でものすごくロジカルに登場人物の関係性や劇中のメタファーなどを織り込んでおきながら、実際の演技によってそれがふっと緩む瞬間のようなものがあり、そこがたまらなかった。(とくに一話と二話で)村上春樹の影響が大きいような気がして、そこにちゃんと「アップデート」の感覚があったのも非常によかった。


③    アメリカン・ユートピア

劇映画ではないんだけど、体験としての映画鑑賞のすさまじさを肌で感じさせてくれた作品。パンデミックの拡大やそれに伴う商業施設・映画館の営業時間の短縮なんかでなかなか映画を観に行けず、一ヵ月ぶりくらいに行った最初の映画がこれだったんですが、ぶっ飛ばされるとはこのことでした。今年一番聞いたサントラもおそらくこの映画。

 

④    フリー・ガイ

ひとりの男が「ある女性に恋をする」という運命から解放される話でありながら、すれ違っていた二人が最後には結ばれる王道ロマコメでもあり、それらが有機的につながってて一粒で二度おいしい。それに加えて、政治についてきちんと描いた映画でもある。ガイが自らの運命を切り開こうとする展開が、フリー・シティ住人たちの「自分たちの暮らしを変えたい」って気持ちとつながっていき、そうやって皆が「かくあるべき」という抑圧を認識して自らの意思や態度を表明し、「為政者」に変化を要求する。これこそが政治で、ごく基本的で素朴なんだけどものすごく大事なものなんだなと。


⑤    サンドラの小さな家

共助の力強さを雄弁に語りながら共助賛美には陥らず、夫からDVの被害にあって2人の子供と暮らすシングルマザーの苦境をシビアに描きながら彼女を「被害者化」しない作品。現実の厳しさを決してないがしろにしない誠実さがありながら、同時に主人公の尊厳の回復を実現するための物語が素晴らしかった。


⑥    17歳の瞳に映る世界

「厳しく」というか「理不尽に」女性の身体を支配する世界において、なんとか手をとり合って生き抜こうとする確かな勇気を切り取った映画。オータム(シドニー・フラニガン)とスカイラー(タリア・ライダー)が大親友でツーカーというわけではなく、互いの考えが理解できない時もあるけど、その上で相手の意思を尊重しようという距離感がすごく良かった。


⑦    あのこは貴族

異なる世界に住む女性二人のつながり———それは「連帯」や「シスターフッド」という言葉でくくれるものかはわからないが、そこには確かにつながりを感じる。この映画でもグッときたのは距離感と誠実さで、影響を与え合いはするけどべたつかない華子(門脇麦)と美紀(水原希子)の距離感によって、2人の階級の違いをごまかさずにいる誠実さが保たれているのかなと。超お坊ちゃんの幸一郎(高良健吾)への眼差しも上手い。


⑧    キャンディマン

好物であるジョーダン・ピール印のホラーで、リメイク元の古さと「白さ」をひっくり返してアップデートしつつ、そこに黒人男性の身体への批評性を加えられている。しかも、それらを現代美術業界の舞台裏ものとして説得力を持たせるビジュアルセンスも抜群で、ニア・ダコスタ要注目。


⑨    エターナルズ

言わずもがな、MCUおよびハリウッドブロックバスターとしてエポックメイキングなキャスティングの意義はもちろん、シンプルな特殊能力バトルものとしても大変楽しかった。セルシ(ジェンマ・チャン)が主人公であることの意味深さは、単にアジア系女性である点だけでなく、スーパーマン的白人シスヘテロのヒーローであるイカリス(リチャード・マッデン)の有徴化という点においても言えると思う。

 

⑩    ドライブ・マイ・カー

村上春樹の翻案として、原作にある「有毒」とさえ言える部分をそのままにしつつ、それを時間をかけて溶かす映画になっていることに感動した。『偶然と想像』にも村上春樹の影響がみられると書いたが、どちらも「正しく傷つく」ことがテーマであり、濱口竜介監督の引き出しの多さと演出の一貫性に感心した。個人的に村上春樹に対しては愛憎があるんだけど、こうやって村上春樹作品を「解毒」する良質な翻案作品が見られてとても嬉しい。