2022年映画ベスト10

 

 ツイッターの方ではちょくちょく言っていたのだが、今年は環境の変化があったりして去年よりも鑑賞本数がグッと減った。数えてみたら映画館で観たのは27本で、配信やオンライン試写も含めた新作映画の鑑賞本数は70本だった。ということでかなり寂しい気もするけど、ちゃんと好きな映画を10本選んだので、どうぞよろしくお願いします。

 

 

①エルヴィス

 ギラギラ外連味たっぷりに、何なら過剰に描かれるひとりのスター/アイドルの人生を通して、「依存」というテーマを「円環」のモチーフで掘り下げている。「依存」のレイヤーがいくつかあるなか、ファンとミュージシャンの関係にも触れていて、そのあたりが自分感じていたこととも重なった。

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②カモン カモン

 子どもと触れ合いながら「『まとも』に生きる」とは何かを模索する大人の話なのだが、「人間嫌いの中年男が天真爛漫な子どもとの交流で成長する」みたいな話なってないところがすごくいい。c’mon c’monという合言葉がトキシックポジティビティとして発せられるのではなく、地に足ついた意味合いを帯びるところも素晴らしい。

 

③ファイアー・アイランド

 「ゲイのディズニーランド」を舞台にした「高慢と偏見」の翻案ラブコメ。キャラ設定から小道具の使い方まで原作のツボを完ぺきに抑えつつ、「家族」の読み替え、インターセクショナリティの表現などといった再解釈が機能しており最高。ロマコメオールタイムベスト級です。

 

④スティルウォーター

 父性神話でくるまれた「異国の地で娘の冤罪を証明する」ストーリーのもつ政治性をすごくシビアに解体する。政治はそれに何の興味もない人の身にも降りかかってくるし、そういう人が知らず知らずのうちに何かを「担ってしまってる」ことがあり、そういう状況を描いている点でとても政治的。

 

⑤私ときどきレッサーパンダ

 ポップなアニメーションで表現される生々しくて個人的な欲求と葛藤が、縦と横に広がって普遍的な家族と共同体のテーマに接続されるさまが見事。個人的にはアイドル文化の描写———ライブの体験があたかも宗教的体験かのように描かれ、そこから血縁コミュニティの儀式へとつながる描写がめちゃくちゃ好きだった。

 

⑥13人の命

 立場や生活が異なる人々の群像劇として、暗くて狭い水の中を進むサスペンス/スリラーとしてとても面白かった。それぞれの人物が抱える背景にしっかり手触りがあって、鑑賞後でもしっかりと腹に残る演出がとてもいい。ダイバーチームがホモソーシャルな集団ではなく、互いへのリスペクトがあり、感情を共有し合える仲間なのが見ていて心地よかった。

 

西部戦線異状なし

 徹底して抑制された演出と絵画的なショットの連続で戦争の非人間性塹壕戦の過酷さを描き出していてすさまじかった。撮影が『1917』で内容が『彼らは生きていた』の趣。変わったことはしてないけど、ひたすらシンプルに戦争がもたらす地獄が伝わってくる。

 

⑧声もなく

 身体障害や貧富による教育格差など、登場人物間の権力関係の複雑さを「誘拐」のモチーフによって「家族」の枠に入れ、そのことによって「家族」そのものをズラしてグロテスクな内実を暴く。レイヤーがいくつもあって、視点によって見え方がガラッと変わる、一筋縄ではいかない映画。

 

⑨コーダ あいのうた

 愛、成長、希望、主人公に託されたものすごく純朴で暖かい感情が、変化とともに歌に現れ、歌唱によって物語が形作られていく。ルビーとマイルズの関係も絶妙で、丁寧に描かれていながら「それがすべて」という感じになっておらず、さっぱりとした後味なのがすごく良い。

 

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム

 3部作及びスパイダーマンシリーズの集大成としてこれ以上ないほどやさしく厳しい、胸にしみる作品だった。マルチバースによってスパイダーマンのキャラとしての「宿命」に向き合わざるを得なくなるなか、その克服と葛藤が温かいシンパシーとエンパシーを伴って描かれるのに感動した。

 

 

 こうやって振り返ると、映画を観るうえで日向坂46のことを好きになった影響が大きいなと感じた。あと、ベスト10のうちブログで感想記事を書いているのがエルヴィスだけだったので、来年はもっと書きたいです。