2022年ベスト本

 

 2022年に読んでおもしろかった本を紹介します。ツイッターではほとんど感想を書いてないけど、今年は71冊読みました。あくまで自分が今年読んだ本なので、新刊も10年前の本も混ざっています。順番は読んだ順です。

 

『ワン・プラス・ワン』ジョジョモイーズ小学館

 ご都合主義かもしれないけど、作品に込められた愛や希望や親切に心底感動したYA小説。普段は「無理やりハッピーエンドにしなくていい」だの「これはトキシック・ポジティビティだ」だの言ってるけど、なんだかんだすべてが丸く収まって善人が幸せに物語を自分も求めているんだなあ。

 

ブロークバック・マウンテンアニー・プルー集英社文庫

 これを原作とするアン・リー監督の映画が大好きなのだが、初めて読んでめちゃくちゃおもしろかった。映画と小説、どちらも共通するところと違うところがあり、どちらも死ぬほどいい。当たり前かもだけど、そのことになんか感動した。

 

『失われた賃金を求めて』イ・ミンギョン、タバブックス

 お金の側面から韓国社会の(ひいてはこの世界の)性差別について語りつくす本。フェミニズムについての入門書を読んだ後の「2冊目」という感じ。

 

『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』香月孝史、上岡磨奈、中村香住編著、青弓社

 今年になって日向坂46というアイドルが好きになった自分にとってクリティカルな一冊だった。アイドルの現在地について、今後の可能性について、とにかくいろんな人に薦めたいし、この本に書いている内容についてたくさん語り合いたい。

 

『推し、燃ゆ』宇佐美りん、河出書房新社

 「推し文化」の内実をその外側の人たちにもわかるように書きました、ってな作品ではなく、いわゆる「ちゃんと」生活するのが難しい人が寄りかかる先としての「推し文化」を描いていると思った。端的に言うと「推し文化」における依存の側面を。

 

『ポースケ』

 津村記久子が書く小説の登場人物はみんな人生の世知辛さをこれでもかと背負い込みつつ、何とか世知辛さを変革できないか、どうにか向き合うことができなかともがいている。それらが生活としっかり結びついているので、どこまでもリアルで確かに感じられる。

 

『約束された移動』小川洋子河出書房新社

 とてつもなく静かな筆致とウィアードなストーリーの取り合わせがすごく心地よかった。

 

『神様のケーキを頬張るまで』彩瀬まる、光文社文庫

 錦糸町の雑居ビルにまつわる人々の人生を描いた連作短編集。息詰まるような日常の苦しさのなかでもがきながら生きる人たちのもとにある日もたらされる救いがすごく身に染みる。全ての作品に登場する架空の映画は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とか『ブラック・スワン』がモデルだと思うんだけど、どうだろうか。

 

間宮兄弟江國香織小学館文庫

 「今年出会った作家」を挙げるなら江國香織と上述の津村記久子になるだろう。江國香織は5冊読んでどれも好きだったけど、これがとくにおもしろかった。結婚もせず兄弟2人で満ち足りた生活を送る中年男性の話で、まず男性同士のケアの点からおもしろい。そしてそんな彼らにも非モテ的なミソジニーがあるのだが、女性の視点も入っていることでちゃんと相対化されており、この作品で描かれている男性性はかなり今にも通用するものだと思う。江國香織らしい超然としつつも登場人物に同情を注ぐような文体もあって、今年一冊ベストを選ぶならこれかもしれない。

 

フェミニズムってなんですか?』清水晶子、文春新書

 Vogueでのフェミニズムについての入門的な連載をまとめた本。内容的にはウェブで読んでいたものが多かったけど、基本中の基本を丁寧に書いてくれているので何度読んでも良い。

VOGUEと学ぶフェミニズム | Vogue Japan

 

『新しい声を聞くぼくたち』河野真太郎、講談社

 ポストフェミニズム新自由主義社会における男性性のあり方について書かれた本。著者の前作『戦う姫、働く少女』と同様、多数の映画、漫画、アニメなどを参照した男性性を読み解きは頷くことばかりで、とくに男性性と障害のかかわりはとても興味深かった。

 

 

 ちなみに上にあげたうち江國香織、彩瀬まる、小川洋子は日向坂46宮田愛萌のレコメンドによるもので、自分が知らない面白い本をたくさん教えてもらって本当に頭が上がらない。