暗くて深い空の色〜日向坂46『月と星が踊るMidnight』
日向坂46の8thシングル『月と星が踊るMidnight』のMVが公開されたので、鑑賞直後の感想をメモ的に。ここで書いた感想は後で変わるかもしれないけど、その変化を後で確かめられるようにする意味合いもある。
・けやき坂/欅坂的なテーマ(若者の孤独、反発、葛藤)を振り返って認めた上で、それらを抱きしめて今からでも、今だからこそ前に進もうとする人の背中を押す、とても日向坂らしい応援ソングに仕上がっているとまず思った。
・このような応援ソングを「日向坂らしい」としているのは、自分が『青春の馬』主義者(『3年目のデビュー』で『青春の馬』を初めて聴いたメンバーのリアクションに影響を受けて『馬』こそ「日向坂」だ!と考えている人)だからである。なので『キュン』『ドレミ』『アザカワ』みたいなかわいい雰囲気の恋愛ソングよりは、ストレートで爽やかな応援ソングの方がより日向坂の本質をよく表していると思う。
・『月と星が踊るMidnight』では、日向坂らしい応援ソングを作り上げるうえで、グループが改名して以来あまり接近してこなかったけやき坂/欅坂らしさを取り入れている。そのようなプロセスを経たことによって、これまでと同じ「日向坂らしさ」ではない、「日向坂らしさ」のまた別の側面を表すことができている。これには衣装のカラーリングも大きく貢献している。
・今回の比較的シンプルなワンピースの衣装で使われているのは紺色と黄色である。これを、日向坂46のグループカラーである「空色×黄色」の変奏としてとらえることは可能であろう。グループが普段提示する「空色」は明るい水色、言ってみれば晴れた昼間の空なのだが、今回使われている紺色は、空は空でも日中真夜中の暗い空の色を表している。これはタイトルに入っているMidnightというイメージや、MV後半での舞台が明るい屋外から暗い空間に変わる事にも合っている。
・このカラーリングをめぐるイメージは、グループ全体の成熟、深化、変容を表しているような気がする。今年の3月に行われた東京ドーム公演以降が日向坂の「新章」だという言説はかなり広く言われているが、これまでと同じイメージを利用しながら解釈を変えたり捻ったりすることは、そのような流れにもマッチしている。
・真夜中の空の色というイメージがとても重要な意味を持ち、古いのに新しい、新しいのに懐かしいといったような、日向坂らしさ/らしくなさを行き来する多面的なイメージを体現する上で、齊藤京子がセンターを務めることの意味合いも大きい。
・齊藤京子は10代後半でけやき坂46に加入し、欅坂46の5thシングルのカップリング曲『それでも歩いてる』でセンターを務めたものの、その後はなかなかセンターというポジションがめぐってこなかった。日向坂46に改名後は加藤史帆とのシンメで安定してフロントメンバーに選ばれてはいたが、「ハッピーオーラ」をモットーにして明るく元気なイメージを打ち出す日向坂と、どちらかといえばテンションが低めで周りの人間と一緒になって騒ぐタイプではない自身のキャラクターの齟齬に悩んでいることもセルフdocumentaryなどで吐露していた。
しかし、今年は(齊藤京子自身初期から望んでいた)ソロでの歌仕事(THE FIRST TAKE, MTVのソロライブ)もこなし、ソロでのレギュラー番組「キョコロヒー」も好調だ。そんなタイミングで「やりたいことをやればいい、遅すぎることはない」と訴える曲のセンターを彼女が務めるのはピッタリだ。
・『月と星が踊るMidnight』はとても日向坂らしい応援ソングながら、けやき坂46的な文脈を利用しており、これまで見せていなかった新たな「日向坂らしさ」というイメージに、衣装、MV、タイトルのカラーリング、齊藤京子のセンター起用が大きく貢献している。
・思えば7月に行われたW-KEYAKI FESのときからこのようなコンセプトの伏線が張られていたのかな。一曲目の『太陽は見上げる人を選ばない』はけやき坂時代の曲にも関わらず日向坂46のためにつくられたような太陽とその下にいる人々について歌詞で、欅坂46のカバーとして披露された『語るなら未来を…』のセンターは齊藤京子であった。けやき坂/欅坂時代のテーマを思い出し、再解釈したうえでこれからの「日向坂らしさ」を作り上げていこうという動きは結構前から始まっていたのかも。
・石造りの天文台とラスサビの頭上にある円形の照明が対比になっていると思った。現実⇄虚構、自然⇄人口、身体⇄精神、昼⇄夜みたいな。
・この曲を聴くまで日向坂が今年の年末歌特番で何を披露するのかわからなかった(『僕なんか』を「その年の代表曲」として披露するイメージが湧かなくて、8thが微妙だったら「グループの代表曲」としてドレミとかアザカワになるのかなと考えてた)のだけど、多分この曲でいくんじゃないかな。上述の通り日向坂らしさがある曲だし、共演するであろう櫻坂が披露するであろう摩擦係数と並んでもちょうどいいバランスになりそう(爽やか/真っ直ぐな応援ソングの日向坂とバチバチにかっこよく抵抗を歌う櫻坂)
・最初と最後に4人の手だけ出てくるシーン、齊藤京子以外のフロントメンバーかなと思ってるんだけど確信はない
・シングル表題曲MV史上で最も画力のあるロケ地だと思う。JOYFUL LOVEを思い出す。あんまり日向坂ではなかった雰囲気で、櫻坂のNobody's faultやBANを思い出した
・4×5で手振りしてるところで「もう20人なのか…」ってなりました。そしてこの時の並びが何順なのかしばらく考えた結果、ただの背の順だと気づいた
・フォーメーション的には、まあとにかく層が厚い。体調面を考慮してのことだろうとはいえ丹生ちゃん三列目はちょっとすごい。あゃめぃちゃんシンメも楽しいけど、それも3列目…フロント複数回経験者が2人も3列目なのは門の狭さを実感させられる。個人的には髙橋未来虹がもうそろそろ2列目上手端に来るのでは?と期待していたのでそこも少し残念
・今回のシングルはカップリングで齊藤京子ソロ曲があると踏んでいるのだけど、きずなーず(齊藤、加藤、美玲)の新曲でもいいなと思った。この3人の"最強感"ハンパじゃない
・とてもライブに組み込みやすい曲だと思った。テンポやメロディもちょうどいいので、どの流れでも合いそうだし、どんな衣装でも映えそう。そういう意味でも、歌番組で「代表曲」として披露するのに『僕なんか』よりむいてそう
・『青春の馬』と「日向坂らしさ」みたいな話をしたけど、「汗」というイメージでこの2曲はつながっているね。Twitterのフォロイーさんが『月と星が踊るMidnight』の感想で「清涼感ある泥臭さ」と書いていたけど、まさにそんな感じ